Grand Archive Lore | Dante 2 ー Epicurean Institute ~快楽研究所~

Grand Archive Lore

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人生の旅路の、四分の一を過ぎたころ。

Danteは、まっすぐな道を見失っていた。

制御できない力。
焼き尽くした過去。
信じきれない相棒。

“治す”という約束が、本当に希望なのか。
それとも、また別の檻なのか。

それでもDisは止まらない。
階層は人を隔て続け、Lower Planeの底では、今日も誰かが生き延びようともがいている。

そしてDanteもまた、自分がどこへ進むべきなのかを探し続けていた。

登場キャラクター

Dante
本編の主人公。
大柄で直情的な青年。
制御できない発作によって、かつて仲間6人を焼き殺した過去を持つ。

Virgil
Danteの幼馴染。
軽妙で口が達者な策士。
Epicurean Instituteに関わりながら、その真意はDanteにも読めない。

Dr. Beatrice Othniel
Epicurean Instituteの医師。
飢えたような野心を持つが、Lower Planeの住人にも偏見なく接する正直な人物。

Augustine
Danteたちが勧誘に訪れた老人の孫娘。
穢れ持ちの候補者。
祖父に守られ、施設への参加を拒まれる。

Bartender(バーテンダー)
District 02のバーの新しい店主が雇う謎の男。
壁の外から来た“よそ者”を、Danteへ引き合わせようとする。


勢力・組織

DisCorp
巨大都市Disを支配する企業。
Lower Planeには決して慈善を施さないとされる。

Epicurean Institute(快楽研究所)
District 01に一夜にして現れた施設。
穢れ持ちを集め、治療と称して施術を行う。
DisCorpが運営。

Prodigals
Danteがかつて属していた集団。
彼はその生き残りを自ら手にかけ、姿を消した。

Leonidas family
歓楽街District 02を縄張りとする一家。


その他

Dis
物語の舞台となる巨大都市。
Higher Plane(上位界)とLower Plane(下位界)に分かれ、District 01〜05などの区画で構成される。

blightheart(穢れ持ち)
Aenean Disorderを抱える者への蔑称。
発作によって周囲へ災厄をもたらすとされ、恐れられている。

Aenean Disorder(エニアン症候群)
遺伝性の疾患。
exiaの流入によって発作(暴走)が引き起こされる。
Danteが抱える病。

exia / aether(エクシア / エーテル)
魔力の源となるエネルギー。
過剰に流れ込むと発作を誘発する。

Harmonia(ハルモニア)
この地の人々が信仰する女神。
口癖や誓いの言葉として登場する。

Carmine Haze(紅の靄)
歓楽街District 02の呼び名。
むせ返るような空気が立ち込めている。


Dante 2 ー Epicurean Institute ~快楽研究所~

Wistful Allegiance ~未練の忠義~

「上位界に一歩足を踏み入れたくらいで、急に偉くなったつもりかい、このガキどもが!」

老人は両腕を振り上げて怒鳴っていた。
Virgilは、タバコをふかしている。

「今度はうちの孫娘をさらおうってのか。DisCorpの飼い犬め、揃いも揃って!」

「まあまあ、じいさん。ほら、DanteだってEpicurean Instituteで検査を受けたけど、ピンピンしてるだろ?」

Virgilは老人の文句を軽く受け流し、ドアのそばに立つDanteを手で示した。
「Augustineはまったく問題ない。おまけに、ちゃんと報酬も出るんだぜ」

「おじいちゃん、いつもVirgilは頭がいいって言ってたじゃない……? もしかして、本当に助けようとして——」

孫娘が心配そうに口を開いたが、祖父は手を上げてそれを制した。


老人が申し出を信じられずにいるのも、Danteには責められなかった。

何十年もインフラ整備などなかったのに、Epicurean InstituteはDistrict 01のど真ん中に、新しい駅とともに一夜にして現れた。
そして今、穢れ持ちたちを次々と集めて回っている。

人体実験の隠れ蓑だという噂がスラムに飛び交うのも、無理はなかった。

DisCorpが慈善や親切をするなんて——ましてやDistrict 01で——ありえない。
腹を空かせた人間ほど、タダより高いものはないと知っている。


それでもDanteは、すでにBeatrice Othniel博士のオフィスで検査を受け、無傷で戻ってきていた。

あちこち突かれたりつつかれたりはしたが、あの女性は何より正直だった。
質問にはすべて明快に答え、上位界で嫌というほど味わった、あの下位界への敵意も感じられなかった。

彼女にとって、District 01の住人は穢れ持ちだろうがなかろうが、ただの患者なのだ。

その笑みに嘘はなく、あるのはただ、飢えたようなむき出しの野心。
Virgilのそれと、よく似た何かだった。

この二人が親しくなった理由も、Danteには分かる気がした。


首を振って、Danteは老人に意識を戻した。

「なあ、あんただって、この子を永遠に閉じ込めておけないのは分かってるだろう。小さな殻に押し込めておけば安全だとでも? 今、施設に預けるか——それとも後で東区画がまるごと火の海になってから、緩衝材だらけの部屋に放り込むか、だ」

「今んとこ、ちゃーんと上手くいってるんでな。だいたい、テメエに何が分かる? ガキの頃から、このうすのろの言うことをオウム返ししてるだけのくせによ!」

血が頭にのぼるのを感じた。
全身が、一瞬で熱く火照る。

「俺が何も分かってないだと?! 黙れよ、じじい!」

老人の言葉は、今この瞬間、まったく必要のない火種だった。

「俺が初めて暴走したとき、目が覚めたら黒焦げの死体が6つ転がってたんだ! あんたの孫娘に、同じ目に遭わせたいのか? ただあんたがビビって、一歩踏み出す度胸もないってだけの理由でな!」

「よくも——出ていけ! うちから出てけ! Augustine、お前ももう一言も喋るんじゃない——」

「わかった、わかったって! ちょっと頭を冷やそう」

Virgilが二人のあいだに割って入った。
老人は臆することなく、Danteの見上げるような巨体に詰め寄っていた。

「名刺を置いていくよ。いつでも連絡してくれ。行こう、Dante」


そうして二人は、トタン屋根の粗末な小屋を後にした。

口を挟んだのは、失敗だった。
だからこういうことは、いつもVirgilに任せているのに。

だが、心配せずにいられるだろうか。
この研究所で過ごした数週間で、Danteはこの試みに本当に何か可能性があると信じ始めていた。

たとえOthniel博士の願いが自分本位でも。
たとえDisCorpにとって、ただの新しい商売の種にすぎなくても。

もし彼女が成功すれば、穢れ持ちと呼ばれ——いや、穢れ持ちで“ある”ことに怯えて生きる日々は、終わる。

ただ流されて引きずり回されるのではなく、その約束を現実にする役目を、自分の手で担えるかもしれない。


角を曲がったところで、Virgilが振り返った。

「なあ、マジかよ?」

「悪い——」

「あー、やめてくれ」
Virgilはタバコを地面に放り、かかとで踏みにじった。

「じいさんはリストの中でも一番の頑固者でさ。昔っからのDisCorp嫌いなんだ。まだ当たる先はある……けど、次はもうちょっと冷静にな、いいか?」

Danteはため息で応えたが、Virgilにはそれで十分だったらしい。
彼は向きを変えて、次の目的地へと歩き出した。

研究所での立場を考えれば、Virgilがこんな下働きをする必要などない。
それでも彼は、どういうわけかBeatriceを信頼し、自分たちの出自を打ち明けていた。

危険な賭けだった。
そもそもVirgilを今の地位に就けるために、二人は卑しい生まれの痕跡をすべて消し去ろうと必死に努力してきたのだ。

たとえ博士自身に偏見がなくとも、偏見を持つ誰かに漏らさないとも限らない。

“プロセスを信じて、俺の言う通りにしろ”——だったか。

いつもの自信たっぷりな足取りで進むVirgilを見ながら、Danteは自分の疑念を、それが深く根を張る前に、必死に引き抜こうとした。


Rational Disturbance ~理性の乱れ~

手首をさすりながら、DanteはOthniel博士の暗く沈んだ姿に目をやった。

ホログラムのスクリーンが放つ鋭い光に、その顔だけがかろうじて見える。

「バイタルは順調に進んでいます。今日の治療、よく耐えましたね」

「週を追うごとにキツくなってる気がするよ」

その言葉に、彼女は微笑んだ。
「ええ……あなたには辛いでしょうね。でもAenean Disorderは遺伝性の疾患ですから、どうしても侵襲的な処置が必要になるんです」


Danteは、薄暗がりの中でもはっきり見える、前腕を走る赤い線を見下ろした。

処置に先立ってexiaを大量に流し込み、無理やり発作を引き起こす——そう聞かされていたが、拘束具に何時間も暴れ続けていたに違いない。

あれほどのエネルギーを放出したのに、かつてProdigalsの仲間から命を奪ったときのような、膨れ上がる疲労感はまるでなかった。

今のDanteはただ、空っぽで、血を抜かれたように虚ろだった。

「これ、他のみんなにも同じことをやってるのか? 正直、これが何の役に立つのか、俺にはよく分からないんだが……」

「はい、これを」
Othniel博士は錠剤と、水の入った小さな紙コップを手渡した。

「守秘義務があるので詳しくはお話しできませんが、皆さんの犠牲のおかげで、すでに大きな進展がありました。あなたの苦しみは、決して無駄にはなりません」

相変わらず、はぐらかす。
彼女が正しいことを、ただ願うしかなかった。


研究所の外では、Virgilが壁のそばで待っていた。

夕陽の最後の光が、遠くの街のスカイラインの向こうに消えていく。

Danteはしばらく彼を眺め、その手にある使い古された文庫本サイズの本に気づいた。
やがてVirgilが顔を上げ、目が合った瞬間、その本はさっとポケットに押し込まれた。

「よう! お疲れさん」

Danteは顔をしかめ、そのまま横を通り過ぎた。

Virgilはすぐに追いかけてきて、研究所のアスファルトの道を横切り、District 01の土の道へと出た。
「なんだよ、俺には労いの言葉なしか? こっちだって検査を受けてるんだぜ!」

——なんだって?

Danteは足を止め、Virgilを見つめた。
「お前は昇進したからここにいるんだと思ってた」

「はは、まいったな」

Danteはこれが大嫌いだった。
これほどの嘘つきが、なぜ自分の企みをわざわざ自分から明かすのか。

だからこそ、意図的なのだと分かる。
だがVirgilは、自分に何を求めているのか?

「じゃあ、お前が“仕事”に費やしてた時間は、全部このためだったのか? 大した昇進だな。どうせ時間の無駄だと——」

「じゃなきゃ、どうやって治療薬を作るってんだ? 俺がふらっと来て、血液検査だけ受けて、はい終わり、なんてわけにいかないだろ」

Virgilはため息をつき、コートのポケットからタバコの箱とライターを取り出した。
「一応、伝えておこうと思っただけさ——でも、全部計画のうちだ。俺は自分が何をやってるか分かってる」

「そうかい——だからこんなにタバコを水みたいに吸ってるってわけだ」

苛立って、DanteはVirgilの手からライターを奪い取り、自分のポケットに突っ込んだ。
Virgilの口には、火のつかないタバコが一本、ぶら下がったままになった。

「Harmoniaに誓って、お前が何が起きてるのか俺に話すことなんて、絶対にないんだろうな」

「おい! 女神様を巻き込むなよ」

タバコをしまいながら、Virgilは肩をすくめた。
どんな話題でもこの飄々とした調子を崩さないのが、Danteには理解できなかった。

「それに——もう一ついいこともあったろ。Beatriceから聞いたぞ、今日なんか薬を飲んだんだって?」

「もう飲んだよ」

Danteは鼻を鳴らし、無意識に痛む手首をさすった。
結局、Augustineを老人が参加させなかったのは、いいことだったのかもしれない。

「気に入らないんだ、Virgil。あの椅子で、女神様も知らないくらい長いこと、獣みたいに暴れさせられた。あれのどこが科学だ? 俺は耐えられる。だが、俺たちが集めてきた連中はどうなる?」

「遺伝子絡みのやつだからさ——良くなるまでは、ちょっとキツいんだ。どんな調子か、逐一教えてくれよ」

「まるで彼女みたいな言い草だな」

Danteはまた歩き出した。
苛立ちが、肌の下で静かに脈打ち始める。

「なるほど、飼い犬を寄越して俺を見張らせてるってわけか」

「はあ? ガキの頃はノミでもたかってたようなお前に犬呼ばわりされるとは、笑わせてくれるじゃないか」

「やろうってのか?」

「まあまあ、落ち着け、ワンちゃん——今日は大変だったよな」

Danteの背中を一発、景気よく叩くと、Virgilは歯を見せて笑いながら追い越していった。
「この観察、もっと面白いところでやろうぜ」


立ち去るべきだった。

ここ最近の治療は後味が悪く、どれだけ深く掘り下げて恐怖を根絶やしにしようとしても、それは何度でも這い戻ってきた。

Virgilと違ってOthniel博士は正直だが、二人はそれ以外のほとんどすべてが似ていた。

より高い目的のためなら——自分たちの計画のためなら——Danteがやらないことなどほとんどないと、二人とも知っている。

Danteは、そういうふうにはできていなかった。
頂点にのぼり詰めるために必要なものを、自分は呑み込めない。

もし立場が逆だったら。
Virgilが暴走して、罪のない仲間を皆殺しにしていたら。

彼は自ら、Othniel博士の椅子に歩み寄っていただろう。
望むものが手に入るなら、手首を折るまでexiaを注ぎ込まれることも厭わなかったはずだ。

それで“この狂った街を正せる”なら、どんな代償も高すぎることはない。


Harmoniaよ、勘弁してくれ。

このバカが何か一つでも正しいとすれば、それは——二人は互いなしにはこれを成し遂げられない、ということだった。

ここまで来て、こいつが博士の椅子の上で壊れた抜け殻になるなんて、絶対に許さない。

Virgilの判断をどれだけ信じていても、こいつをトラブルから引きずり出したのは一度や二度ではない。
同じように、忘却の彼方に消えた6つの死体が、Virgilが自分のためにどこまでやるかを、何より雄弁に物語っていた。

Virgilが振り返った。
唇には、いつもの猫のような笑み。
待っている。

Danteは、深まる闇の中へ、Virgilの後を追った。


Encrypted Recruitment ~暗号の勧誘~

石畳のメインストリートに足を踏み入れた瞬間、Danteはくしゃみをした。

District 02のむせ返るような空気は、その土地の呼び名——“紅の靄(Carmine Haze)”——にふさわしい。

巨大な区画の壁のあいだを走る、朽ちかけた保守用トンネルにVirgilが導いた時から、Danteは今度はどんな厄介事に引きずり込まれるのかと考え続けていた。

Othniel博士がくれた錠剤がAenean Disorderに関係しているなら、おそらく自分の魔法を試す必要があるのだろう。

Prodigalsの残党を消して以来、それを使う機会は、Virgilの用心棒としてだけだった。
昔のように。

まあ、何が目的であれ、面倒なことになるのは間違いない。


一言も交わさず、二人は自然と歩調を合わせ、人の流れに紛れ込んだ。

Danteは常にVirgilの少し前を、肩をいからせ、顎を引き締めて歩く。
ここは歓楽街、Leonidas一家の縄張りだ。

スーツ姿の男が用心棒を連れて通りを歩いていても、何もおかしくはない。
Danteはくしゃくしゃの金髪をかき上げ、それらしく整えた。

District 02の毒蛇どもに、自分を——ひいてはVirgilを——絡む口実を、一つでも減らすために。

背後で、Virgilが気軽に言った。
「お前が嫌ってるあのバーで、待ち合わせがあってな」

「面白いところに連れてくって言ったよな」

「ああ、“俺にとって”面白いところさ」

こき使いやがって。
できるものなら、今すぐ額を指ではじいてやりたかった。


あいにく、Danteは道をまだよく覚えていた。

気づけば二人は、うさんくさい客引きやホステスをかわし、路地へと鋭く左に折れ、あの見慣れた油じみた黒いドアを見つけていた。

Virgilの言い分は、完全に正しいわけではなかった。
Danteが嫌っていたのは、バーそのものではない。

店自体は悪くない、むしろ居心地がいいくらいだ。
賑やかな通りの音は聞こえないし、破産するまで飲ませようとする女もいない。

問題は、詮索好きな店長と、バーテンダーの癪に障る顔だった。
——それが、入ってみると意外にも、どこにも見当たらなかった。


Danteは店内を見回した。
少し様子が変わっている。

古かったバーカウンターは滑らかな光沢を帯び、以前はちらついていた照明が、今はネオンのように熱く燃えていた。
食べ物の匂いまでする。

前に来たときは、Harmonia様でさえピーナッツ一皿かき集めるのに苦労しただろうに。

「最近、新しいオーナーになったらしくてな。サンドイッチを試したかったんだ」

Virgilが不意にそう言って肩を叩くと、先客のいるボックス席へと歩いていった。

「おや、これは誰かと思えば! やっと“メドウズ”からお越しになったか、Virgil?」

見知らぬ男が、もったいぶった調子で彼を迎えた。
Danteには一瞥もくれず、そのおかげで呆れ顔にも気づかなかった。

上位界のお偉いさんに違いない。
ここらの人間で、District 01を正式名称で呼ぶ者などいない。

いつだって悪趣味な冗談のように聞こえるのだ。
——あの灰色の土くれの山を見て、誰が“草原(Meadows)”などと呼ぶだろう?


先ほどの懸念とは裏腹に、それは普通の会談のように見えた。

Virgilが手で追い払う仕草をすると、Danteはカウンターへ引っ込み、食事とドライソーダを頼んだ。
少なくとも仕事中は酒を飲まない——この新しい薬で、そもそも飲めるならの話だが。

腰を下ろすと、新しいバーテンダーは無口で、少しぶっきらぼうだった。
Danteのプルドポークサンドをガチャンと置き、何人かの客をびくつかせる。

だがその肩の据わり方には、どこか頼れる何かがあった。
見覚えのある何かが。


サンドイッチに歯を沈めた瞬間、Danteは動きを止めた。

本物のとろけたチーズ。
ジューシーなプルドポーク。
噛みごたえのあるピクルス。

黒胡椒とマスタードの味は気のせいかと思ったが、肉から滴る脂と並んで、確かにそこにあった。
そのすべてに、下位界には存在しないみずみずしさがあった。

眉をひそめて、もう一口——うまい。

これは間違いなく、District 03の給餌所で配られる残飯じゃない。
District 05で慣れ親しんだ培養肉より、比べ物にならないほどうまかった。

一瞬、財布の心配が頭をよぎったが、District 02のこんな安酒場が、プレミア価格でサンドイッチを出すはずがない。

——そうだろう?


Virgilの方を振り返ると、ちょうど立ち上がって、上品な身なりの知人と店を出ようとしていた。

手を大げさに振り回し、笑みはほんの少し歪んでいる。
酔っぱらいの下手な物真似——この手の秘密めいた“会談”で、何度も見てきたやつだ。

Virgilはこちらを見なかった。
だからDanteは、これも計画のうちなのだと解釈した。

それまでは、せめて食事を楽しもう。


「新しいオーナーねえ。そいつ、なかなかの舌を持ってるじゃないか」

Danteは、グラスを磨くバーテンダーに目をやりながら言った。

男は肩をすくめた。
「あの人の故郷じゃ、これが普通らしいですよ」

「はっ、Disの王族か何かかよ? こんな本物の肉を毎日食えるのは、ずっと上の方くらいのもんだ」

「あるいは、壁の外か」
男は興味なさそうに付け加えた。

「マジかよ?」

つまり、よそ者か。
だが、Leranだか女神様も知らないどこかから肉を輸入しているなら、なぜ下位界の底で、こんなに安く売るのか?


バーテンダーはグラスを置き、カウンターを磨き始めた。

慣れた無口さで、少しずつDanteの席へと近づいてくる。
やがて、一枚のクリーム色のカードが、皿の隣に現れた。

顔を上げたときには、バーテンダーはもう別の作業に取りかかっていて、変わらぬ淡々とした調子で言った。

「そんなに気に入ったなら、本人に直接言ってやりゃいい。仕事にありつけるかもしれませんよ。何か大きなことで、人手を探してるって話です」

——“待ち合わせがある”、とVirgilはさっき言っていた。
その言葉が、思っていたより文字通りの意味だったことに、Danteは気づいた。

言った通りだ。
District 02に来ると、いつだって厄介事になる。

「うーん、俺はちょっと忙しくてな——」

奇妙な狼のロゴに目をとめ、バーテンダーの無関心を真似ながら、Danteはカードをポケットにしまった。
「時間を割けるかどうか、分からんな」

「まあ、あのDistrict 05の後始末で、だいぶ物入りだったでしょう。その代わりに、喜んで一枚噛んでくれるそうですよ」

Danteは、危うくスツールから転げ落ちそうになった。


一瞬で、全身が熱くなった。

“何か”の記憶——いや、予感に、体が震える。
すべてを解き放ちたいという、あの渇望。

自分という存在をぐるぐると巻き上げてきたバネが、一気にほどける、あの解放。
それが、Othniel博士の実験によって芯にえぐり出された空洞の中で、吠えていた。

今なら分かる。
あのすべてが、自分のエーテルという、飢えた焚き付けを剥き出しにしたのだ。

パチパチと乾いて、飢えて、今にも火花に触れようと張り詰めている。

カウンターの向こうで、男はただ片眉を上げた。
まるでDanteが、よだれを垂らす飢えた獣ではなく、ただの騒がしい客だとでもいうように。

——今にも自制を失いそうなのを、必死で堪えているのだと、気づいてもいないように。

数ヶ月前に起きたのも、これだったのか?


そのとき、冷たい川が全身を洗い流した。

息を呑むほどの、突然の静けさ。
どうにか平静を保とうともがくDanteの肩を、どこからともなく現れたVirgilがぽんと叩いた。

「悪かったな。あいつを車まで送ってやらなきゃならなくてさ。ちょっと飲みすぎたみたいでね」

Danteは、ただ喘ぐように息を吐くことしかできなかった。
目は、Virgilが現れた途端に顔を背けたバーテンダーに、釘付けになっていた。

「なあ、こいつの分は俺のツケにしといてくれ、いいか?」

視界の隅に黒い点がちらつく。
Virgilの言葉は、水の中から聞こえてくるように、ぐにゃりと歪んでいた。

それでもDanteは、彼に引っ張られるまま路地へと出た。
一歩ごとに、世界が振り子のように揺れる。

「——そして、お前。ここから出るぞ」


外に出ると、生暖かい宵の空気が、肌にべたついて熱かった。

Danteがあまりに朦朧としているので、Virgilは人混みを彼を引きずって進まなければならなかった。
夜が更けるにつれ、人の流れはますます密になっていく。

聞きたいことは山ほどあるのに、思考は形を結ぶ前にすり抜けていく。
とりとめのない水の筋が、燃えるような頭の中に、いくつもの川を刻んでいく。

ふたたび全身が火に包まれ、今にも爆ぜそうな炎を、あざだらけの手首を握るVirgilの冷たい手だけが、かろうじて繋ぎ止めていた。

子供の頃と同じだ。
半ば閉じた瞼の向こうに見える二人は、いまだに引きずり回されていた、あの頃の子供たちと、ほとんど見分けがつかなかった。

それでも——Danteは命綱のように彼の後を追い、Carmine Hazeを抜けて、家へと帰っていった。


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