Grand Archive Lore|Dante 1 ー Crimson Vein ~深紅の脈動~

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Grand Archive Lore | Dante 1 ー Crimson Vein ~深紅の脈動~

天に最も近い者たちは、知っている。

人が手を取り合えば、成し得ぬことなど、ほとんど無いのだと。

だからこそ彼らは、絶えず人々を分断しようとする。
階級で。
信仰で。
性別で。

——そして、その血によってさえも。

やがてDanteが思い知ることになる、その真実の物語。

登場キャラクター

Dante
本編の主人公。大柄で直情的な青年。
exiaを操る特異な魔法の使い手。ある日、制御を失い、仲間6人を焼き殺してしまう。

Virgil
Danteの幼馴染で唯一の親友。軽妙で口が達者な策士。
スラム出身ながらDisCorpに食い込み、ある“計画”を進めている。

Beatrice
DisCorpで科学革新を率いる女性。DCSFの長。
Aenean Disorderの治療施設プロジェクトを立ち上げている。
(※Dante 2に登場するOthniel博士)


勢力・組織

DisCorp
巨大都市Disを支配する企業。
慈善とは無縁とされる。

DCSF
DisCorp内の一部門。Beatriceが率いる。
Aenean Disorderの治療施設を計画している。

Prodigals
Danteが身を寄せた雇われ用心棒の集団。
訳ありのはぐれ者ばかりだが、気のいい仲間たち。Danteの暴走によって全滅する。


その他

Dis
物語の舞台となる巨大都市。
Higher Plane(上位界)とLower Plane(下位界)に分かれ、District 01〜06などの区画で構成される。
中心にはTower of Disがそびえる。

blightheart(穢れ持ち)
Aenean Disorderを抱える者への蔑称。
特にLower Planeの患者を指す。発作によって周囲へ災厄をもたらすとされ、恐れられている。

Aenean Disorder(エニアン症候群)
能力が突如暴走する疾患。
発症は無作為で、多くの場合エネルギーを操る瞬間に現れる。近年、Disで急増している。

exia / aether(エクシア / エーテル)
魔力の源となるエネルギー。
Danteはleylineや機械、さらには人間からもこれを吸い上げ、操ることができる。

Elysian(エリシアン)
Aenean Disorderを持つ者を“鎮める”とされる存在。かつては理論上の存在にすぎなかった。
Beatriceは、VirgilがそれではないかとDanteに告げる。

Harmonia(ハルモニア)
この地の人々が信仰する女神。口癖や誓いの言葉として登場する。


Dante 1 ー Crimson Vein ~紅の血脈~

Seditious Impetus ~叛逆の衝動~

District 05のスカイラインは、獣のようだった。

建設途中の摩天楼が、骨組みを剥き出しにして並ぶさまは、ギザギザの金属の牙のようだ。
立ち込める汚染は濃く、Tower of Disの巨体さえ覆い隠している。

まっすぐ見上げれば、District 06の裏側が目に入る。
その金属の骨組みは、arcane aetherの淡い青に脈打っていた。
区画のインフラを支えるため、leylineが引き込まれているのだ。

そのすべての狭間で、金属とスモッグの隙間にわずかな空を見つけ、Danteは身を震わせた。


足音が聞こえた。
続いて、タバコの箱を探る音と、聞き慣れた声。

「見よ、我らが都市の巡り、なんと広大なことか! 見よ、我らの座は満ち溢れ、もはや欠ける者とてほとんど無し!」

「今はやめてくれ」
Danteは唸った。

信仰なき男が、同じ異端者に向かって聖句を引くほど、癪に障るものはない。
それでも彼の手は、反射的に伸びていた。
離れていた時間があっても、長年刷り込まれた癖は、そう簡単には抜けない。

手を上げた瞬間、彼はそれを引っ込めた。
血管を駆け巡るアドレナリンで、腕はまだ震えている。

今いちばん欲しくないものが、タバコだった。
あの、鼻を突く、焼け焦げた——

「お前がぼーっとしてるあいだに、清掃班は来て、もう帰った。俺は電話を一ダースばかりかけた」

道徳的な反発はさておき、あれほどの惨状を隠蔽するのに何が必要なのか、Danteには想像もつかなかった。
——半ダースの命が、本当にそれほど使い捨てのものだったのか?

「ほら、お前には必要だ。そうすりゃ、まともな話ができるだろ」

断れるはずもなかった。
Virgilはもはや、ただの友ではない。
この“頼み事”の重さで、Danteは彼に、三度も命を借りた身になっていた。

震える指でタバコを受け取ると、Virgilはライターを一息に開いて火をつけた。
どれくらいの時間が経ったかは分からない。
だが震えは止まり、不安は肌のすぐ下で、低く脈打つ程度に収まっていった。

Danteが、殺したのだ。
全員を殺し——そして、決して自分を売らない唯一の人間に、臆病者のように電話をかけた。

「お前のせいじゃない。お前がAeneanだなんて、俺たち誰も知らなかった——」

「黙れ」

「Dante、俺は本気で言ってる。Aenean Disorderは無作為に起こるんだ! いつ、どこでその醜い頭をもたげるか、誰にも分からない」

「俺はこの忌々しい力を、何年も使ってきたんだぞ!」
Danteは頭を抱えた。
温かい灰が、腕にぱらぱらと降りかかる。

「それがこの様だ——“穢れ持ち”ときた。あいつらは俺を信じてたんだ! お前も——お前だって、信じて——」

その奇妙な力を使った回数は、数えきれない。
leylineからも、人間からも、exiaのエネルギーを汲み上げてきた。

Virgilの用心棒として。
それ以前も、District 01の掘っ立て小屋で、害虫を——ためらいもなく始末してきた。

今この瞬間、自分の給料を払い、継ぎ接ぎの家族に迎え入れてくれた、あの善良な男女の死以上に。
Danteの頭から離れなかったのは——壊れた灰の死体となって横たわるのが、Virgilだったかもしれない、という現実だった。
あの、焦げた匂いのする——

込み上げる吐き気の前に、Virgilが軽く肩を小突いた。


「たまには俺の言うことを聞けよ、バカ。お前の記録が綺麗なのは、親友のおかげだぞ。自己嫌悪に入る前に、“ありがとう”の一言くらいもらえないのか?」

Virgilは、めずらしく荒っぽい口調で言った。
スラムを出て以来ずっと身につけていた、あの上品なHigher Planeの訛りとは、まるで違う。

その仮面を外してくれると、Danteはいつも安心した。
——理解に苦労するものが、一つ減るから。

「俺たちが散々見下してきた、あらゆる卑劣な手を使ってまで助けられて、気分がいいわけないだろ!」

指の間でタバコが潰れるのを感じながら、Danteは爪を頭皮に食い込ませた。

「他の穢れ持ちみたいに、俺を縛り上げて、どこかの療養所送りにすべきなんだ。まさか俺に、時限爆弾でもないような顔で歩き回れっていうのか!」

「で、暴走してギャングの何人かを殺した——“それだけのことで、諦めて計画を投げ出すのか”? しっかりしろよ」

Virgilは長々と煙を吸い込み、Danteの反論を封じるように手を突き出した。
さらに長く吐き出してから、彼は続けた。

「たった三日だ。三日間、家にいて、力を使うな」

「一体、何を——」

Virgilの瞳が、影の中でエメラルドのように光った。
いつの間にか、宵闇が路地を包み込んでいた。

あの冷たい自信。
煤にまみれたガキだった頃から、ずっと彼が抱えてきたもの。
District 01の地獄から、二人をDisCorpの真珠の門まで引きずり上げた、あの力だ。

「計画がある」

そう答える彼の指の間で、消えかけた残り火が、闇の中で震えていた。


Negligent Naivety ~迂闊な無邪気さ~

Danteは浴室の鏡から水滴を拭った。
現れたのは、血走った目と、無精髭。

一日目は、眠った。
二日目は、煙で汚れた天井に、目で穴を穿った。
そして三日目の夜明けが訪れた今も、体じゅうの靭帯が、見えない力に引き絞られて痛んでいた。

だがその痛みの底では、強大な力が唸っている。
——今にも発火しそうな、膨れ上がったバッテリーのように。

もっと悪いのは、このエネルギーがどこから来たのかを思い出す時だった。
自宅軟禁と、Virgilからの沈黙の中では、あの目もくらむような、大地を揺るがす瞬間を思い浮かべるのは、あまりに容易かった。

彼はカミソリを手に取り、作業に取りかかった。
Virgilは、いつ立ち寄ってもおかしくない。


訊きたいことは山ほどあった。
——あの事故、いや、犯罪、あの“虐殺”と、自分が殺した者たちの顔以外のことを、考えられたなら。

何が引き金だったのか、正確に思い出すのは難しかった。
その日は、あまりにありふれた一日だったから。

VirgilがDisCorpのスーツどもと親しくなった一方で、Danteは彼のおこぼれで生きるより、仕事に就くことを選んだ。
あの男が自分を飢えさせないのは分かっている。
だが、その厚意にたかるのは、性に合わなかった。

書類上はルームメイトでも、DisCorpに食い込んで以来、Virgilは家に帰らなくなり、Danteは留守番役に回されていた。

District 01出身の、読み書きもろくにできない用心棒に、仕事の口は多くない。
それでも彼は、Prodigalsという小さな用心棒集団に迎え入れられた。

はぐれ者ばかりの寄せ集め。
家を飛び出した者、何らかの理由で追い出された者。
荒くれ者揃いだが、根はいい連中だった。

いつも通り、街を歩き回って借金を取り立て、夜には用心棒の仕事が待っている——はずの一日だった。
それなのに陽が沈む頃には、その集団の存在は、まるで初めから無かったかのように、Disの登録簿から消し去られていた。


その日の身支度をしながら、Danteはどれほど辛くとも、あの光景を頭の中で再構築しようとした。
大切なことだった。
——彼らの血は、自分の手についているのだから。

まず、自分の知るAenean Disorderのことから始めた。
もっともその名は、たいていHigher Planeの患者にしか使われない。
District 01の患者は、ただ“穢れ持ち”と呼ばれるのが常だった。

この病はDisと同じだけ古くから存在してきたが、ここ数年で異常な高まりを見せていた。

原因はほとんど解明されていないが、その結末はしばしば致命的だ。
人の能力が、制御を失って暴走する。

風を操る女が、家の真ん中で竜巻を呼び。
ある学生は、火球を扱うaetherologyの授業中に、学校を炎上させた。

Virgilの言う通り、発症は無作為だ。
だがたいていは、エネルギーを操る瞬間に、最も顕著に現れる。

この街に、本当は何人の患者がいるのか、誰に分かるだろう。
ゴミ収集人や、街の音楽家が、いつあんなふうに暴走する不運に見舞われるとも限らないのだ。


だが、公になったどの事件とも違い、Danteは自分のケースが異常だと考えていた。

彼はこの二十数年、ほぼ毎日、欠かさず力を使い続けてきた。
あの孤児院で意識を得た瞬間から、彼は特異な魔法の才を示していた。

aetherを操る力。
自分自身のものだけでなく、周囲にあるexia属性のaetherさえも。

leylineから、機械から……そして、人間そのものからも、そのエネルギーを取り込むことができた。
時には世界そのものが、無数の小さなaetherの血管が張り巡らされた網のように見えることさえあった。

誰も、その力の扱い方を知らなかった。
スラムの孤児院が、専門家を——ましてやそんな症例を研究する機関に、わざわざ子供を送るはずもない。

だが、それが彼を悩ませることはなかった。
一度も、問題になったことがなかったからだ。

苛立てば虫やネズミを殺し、じゃれ合いが行き過ぎて、子供が一日寝込むこともあった。
——それでも、人々が少しずつ自分から距離を置いても、彼は平気だった。

Virgilが、いつもそばにいてくれたから。
だから、寂しいと感じたことは、一度もなかった。


その頃、彼は暴走などしなかった。
大人と偽れる年頃になり、Virgilの用心棒を務めていた間も、暴走しなかった。

二人はLower Planeの汚泥をかき分け、多くの者が不可能と思ったことを成し遂げた。
——Disの底辺に生まれながら、VirgilがDisCorpの内定を勝ち取ったのだ。

あの男はいつも「共同事業だ」と言っていたが、結局、進むべき道を切り拓いたのはVirgilだった。

Danteは、たこだらけで、紫のあざが斑に浮かんだ自分の手を見下ろした。
あの制御不能なエネルギーの奔流は、今やその手さえも脅かしていた。


あの日の午後、彼はぴりぴりとした感覚を覚えていた。
静電気が背筋を這い上がり、血管へと広がっていく感覚。

まるで飢えのようだった。
だが、exiaは常に、扱いに手を焼く破壊的な力ではあった。

取り立て先のドアをノックする合間、彼はほんの一瞬、そのことを考えた。
——次の瞬間、気の荒い借り主がドアを勢いよく開け放った。
その拳が、午後の光に鋼の輝きを帯びて……

仲間の一人が、真鍮のナックルを顔面にまともに食らい、その血がひび割れた舗道に飛び散った。

確かに、緊迫した状況ではあった。
怒鳴り、心臓が高鳴ったかもしれない。

だがDanteなら、いつも通りに対処できたはずだった。
借り主のexia aetherを、仲間が取り押さえられる程度に吸い取り、鼻を潰された男の様子を見て……

だが、そこまで至らなかった。
誰もが持つaetherの井戸に手を伸ばした瞬間、それは火打ち石と火口のように爆ぜたのだ。

子供の頃から繰り返してきた、あまりにありふれた行為が。
——6人の人間の死を招いた。

犠牲者たちのくすぶる亡骸の中で意識を取り戻したとき、彼にできたのは、近くの公衆電話まで身を引きずり、この神に見放された街で唯一心から信じられる人間に、電話をかけることだけだった。


Danteは呻きながらベッドの端に腰を下ろし、脈打つ頭を両手で抱えた。
体じゅうの関節が抗議の悲鳴を上げ、胸の中では虚無が食い荒らしていく。
人間の悲しみのあらゆる色が、彼の中で同時に広がっていった。

それだけのことで、諦めて計画を投げ出すのか?

Virgilの言う“計画”は、彼の人生における数少ない不動のものだった。
子供の頃の約束が、目的へと変わったもの。

それはいつも頭の片隅にあり、一歩一歩を導いてきた。
Danteは、自分が大した人間にはなれないと、ずっと分かっていた。
だが計画があれば、たとえ誰も自分の名を知らなくとも、この命は誰かにとって意味を持つ。


Elegant Retribution ~優雅なる報い~

あの夜のことは、はっきりと覚えている。
空はいつも通り、星のない、墨のような青。

District 01の割れた街灯は、夜には完全な闇を意味したはずだ。
——遠くに、他の区画のネオンの輝きさえなければ。

どういうわけか、Virgilの緑の瞳は、その陰鬱さを切り裂いていた。
彼がいつも内に秘めている、あの光が、溢れ出していた。

この狂った街を、正したいんだ、Dante。でも、お前が必要だ。お前と俺なら、きっとやれる。

Danteは、笑いたくなった。
ガキ二人に、Disという金属の巨像を相手に、何ができるというのか。

噛み砕かれ、骨まで吐き出されるのがオチだ。
——ある意味、生まれる前から、すでにそうされてきたのだから。

District 01から抜け出せた者など、誰もいない。
その価値を思えば、死んでいるのも同然だった。

だがVirgilがあまりに真剣だったので、Danteは笑う代わりに、約束をした。
貧しい少年に与えられる、たった一つのもの。

わかった……一緒に正そう、誓うよ。お前がそう言うなら、どこへだってついていく。

苛立たしげなノックの音が、彼を夢から引きずり出した。


Danteは指輪をはめた。
魔法を通す、彼が持つ最小の導管だ。
そして、静かに玄関へと歩いた。

覗き穴の向こうに、見慣れた綿菓子のようなピンクの髪が見えた。
閂を外すや否や、Virgilは押し入るように入ってきて、後ろ手にドアを閉めた。

「遅いぞ! ずっと外で待ってたんだからな!」

「悪い、眠っちまってたみたいだ」

「まあいい」
Virgilはため息をつき、やつれた友の姿をよく見ると、その勢いを失った。

彼は空のダッフルバッグを、年季の入ったコーヒーテーブルに放り、ソファのそばの椅子に腰を下ろした。
「座れよ。長い話になる」


実際、長い話だった。
もっともVirgilは、ここ数日のことを断片的に、細部には深入りせず、むしろ大枠を語ることを選んでいたが。

彼をDisCorpに引き入れた伝手は、たまたまDCSFの長だった。
——Danteには何の意味も持たない略語だが、Virgilはそれを口にするとき、得意げに微笑んだ。

彼はBeatriceという女性を信頼していた。
会社の科学革新を牽引する人物で、Virgilは自分の窮状を打ち明けるほどに、彼女を信じていた。

「で、聞いて驚け。彼女はもう、俺たちにこれ以上ないってくらい打ってつけのプロジェクトを進めてたんだ」

彼は生き生きと語り始め、手を振り回した。
「Aenean Disorderを持つ者のための、特別な施設さ。病の治療法を見つけるためのな」

Danteは鼻に皺を寄せた。
「つまり、俺たち穢れ持ちのネズミ用の、実験室ってことか?」

「なっ、違う! ハルモニア様、お前はいつだって悲観的だな」
Virgilは身を乗り出し、なおも笑っていた。

「検査くらいはあるだろうよ。だが、そこいらの人間が運営するわけじゃない——DCSFは、自前の医者だけで固めようとしてるんだ。Aenean Disorderにかけちゃ、そいつらは最高の連中さ。連中は人を“更生”させたいんだよ、Dante」

「DisCorpが、いつ更生なんかに関心を持った?」
彼は腕を組み、Virgilの楽観に苛立った。

彼らしくもない、無邪気さだった。
このスーツへの信頼が、どこから来たのか、Danteには理解しがたかった。

「療養所と、何が違う? 結局どこかへ送られるのは同じだ。手間が増えて、連れが悪くなるだけじゃないか」

「まあ、そう言うなって」
彼は指を一本振ってから、膝の上で腕を組み、Danteに最高に悪魔的な笑みを向けた。
「俺とつるむのが、そんなに嫌か?」

——はぁ。
「で、なんでお前まで行くんだ?」

「昇進さ。新事業ってことは、埋めるべき新しいポストがあるってことだ。で、たまたま俺が異動を志願する気になった、ってわけ」

Virgilは再び椅子にもたれ、背もたれに腕をかけた。
——よほど興奮しているらしい、とDanteは思った。じっとしていられないのだから。

「それに……まあ、Beatriceが言うには、お前が今まで一度も暴走しなかった理由は、この俺かもしれないんだとさ」

その言葉が、長く静かな一拍のあいだ、宙に浮いた。
「……なんだって?」


ふいに沈んだ様子で、Virgilは続けた。

「ああ。俺たちの中には、Aenean Disorderの人間を……なんつーか、“鎮められる”奴がいるって説があるらしい。彼女はそいつらをElysianと呼んでる。まあ、これまではただの理論だったそうだが」

Danteは凍りついた。

この何年もの間、自分は病を抱えていて、ただVirgilのそばにいたおかげで、運良く難を逃れてきたというのか?
その確率は天文学的なはずだ。
それでも、自分と、報告されたあらゆる暴走事件との、唯一の違いがそれだと言われれば、否定できなかった。

もしかしたら、世界には他にもElysianがいて、他の穢れ持ちを抑えているのかもしれない。


「だめだ。中止しろ」

神経がすり切れていた。
疲れ果てた体の中で、苛立ちと不安が混ざり合う。

Danteは、どこかの地下室に閉じ込められる方がましだった。
——こんな形で、Virgilの足を引っ張るわけにはいかない。

この同じ部屋で、二人は何千回もそれをおさらいしてきた。
DisCorpに就職し、出世の階段を上り、内側から変える。

Aenean Disorderの連中と一緒に送られて実験台にされるなど、その何の役にも立たない。
「そんな特別な施設で時間を無駄にして、どうやって出世するつもりだ?」

「落ち着けって」
Virgilは、ほとんど軽々しく言った。
「計画には、お前が必要だって分かってるだろ? 俺たちは“一緒に”正すんだ」

「だから、お前も分かって——」

「考えてもみろ、Dante。仮に俺たちが、Aenean Disorderの治療法の礎になったとする。お前は、最初に治った男。Disonianたちにとっての、希望の象徴だ。この俺は? 救世主さ。俺の体そのものが、あの最も破壊的な病の、文字通りの特効薬になる」

「で、DisCorpが俺たちを閉じ込めて、連中の貯金箱にする以外の何かをするとでも? Disは慈善で知られた街じゃないぞ」

「そのへんは全部、俺に任せろ。俺たちの体そのものが関わる話で、この俺が不用意になると思うか?」
彼は手をひらひらと振った。
「お前はいつも通りやればいい——プロセスを信じて、俺の言う通りにするんだ」


Danteは歯の隙間から息を吐いた。
それが自分をどれほど愚かに聞こえさせるか、そしてVirgilが、ほんの数日前に隠蔽したばかりの死者たちを、どれほど容易く乗り越えているように見えるか——それを深く考えないようにしながら。

彼の目が、コーヒーテーブルに置かれたままのダッフルバッグに留まった。
「で、それは?」

「ああ、そうだ。お前の荷物用さ」
そう言って、Virgilは立ち上がった。

「今夜、発つぞ」


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Sources

“Dante I — Crimson Vein” – Grand Archive Official Article

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